医薬品の米国株 — 日本企業から見る対応表
この業界は、6社のうち5社が「単一セグメント」です。
武田薬品工業・第一三共・アステラス製薬の3社は、有価証券報告書に「セグメント情報の記載を省略」と書いています。イーライリリーも10-Kに「単一の事業セグメント — ヒト用医薬品」と書いています。ファイザーは社内に3つの区分を持ちますが、報告するセグメントは1つだけです。
つまりこの業界では、事業の内訳を見比べても会社の違いが出てきません。違いは別のところに現れます。
この業界の日本の顔ぶれ
武田薬品工業
医薬品事業の単一セグメント。消化器系・炎症性疾患、ニューロサイエンス、オンコロジーを重点領域とし、血漿分画製剤とワクチンにも注力する。連結子会社等を含めて165社。
第一三共
医薬品事業の単一セグメント。国内に一般用医薬品(第一三共ヘルスケア)とワクチン(第一三共バイオテック)の子会社を持つ。海外38社のうち米国に第一三共Inc.とアメリカン・リージェント。
アメリカの対応企業
| 企業 | ティッカー | 事業 | 売上高 | 掲載企業内シェア | 時価総額 | 対応の濃さ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| イーライリリーEli Lilly and Company | LLY | 単一セグメント。10-Kに「ヒト用医薬品」と明記する。1876年にインディアナポリスで創業した事業を継承し、1901年に法人化した。約90か国で販売する。 | 10.4兆円FY2025 · 米国基準 | 33.8% | 177.0兆円 | アステラス製薬 ◎ 武田薬品工業 ○ 第一三共 ○ |
| メルクMerck & Co., Inc. | MRK | 医療用医薬品と動物用医薬品の2セグメント。6社のなかで唯一、医薬品以外の柱を持つ。動物用医薬品は売上の9.9%。 | 10.4兆円FY2025 · 米国基準 | 33.7% | 53.4兆円 | 武田薬品工業 ○ 第一三共 ○ アステラス製薬 ○ |
| ファイザーPfizer Inc. | PFE | 社内はBiopharma・PC1・Pfizer Igniteの3区分だが、報告するセグメントはBiopharmaのみ。PC1は受託開発製造と特殊原薬の供給。Pfizer Igniteは2025年に中止を決定した。 | 10.0兆円FY2025 · 米国基準 | 32.5% | 24.3兆円 | 武田薬品工業 ◎ 第一三共 ◎ アステラス製薬 ○ |
対応の濃さ:◎ 直接競合(世界市場で同じ製品・顧客を取り合う)/○ 同業(業界は同じだが事業構成が異なる)/△ 部分対応(一部の事業のみ重なる)
規模の比較
日本企業(オレンジ)と米国企業(青)を同じ物差しで並べています。米ドルは基準日のレートで円換算しました。会計基準が異なるため、売上高の範囲は完全には一致しません(各社の基準を併記しています)。上の表のシェアは、掲載した米国企業3社の売上高合計に占める割合です。世界市場でのシェアではありません。
日米の構造の違い
内訳で差が出ない業界
これまでの業界では、事業の内訳が会社の性格を映していました。日用品ではペット事業を持つ会社と持たない会社が分かれ、建設機械では地域で区切る会社がありました。
医薬品は違います。6社のうち5社が単一セグメントで、内訳そのものが存在しません。開示資料から読み取れる事業の形は、ほぼ同じです。
唯一の例外がメルクで、動物用医薬品を別のセグメントとして開示しています。売上の9.9%です。
違いは地域構成に出る
事業別の内訳がない代わりに、ファイザーとリリーは地域別の内訳を開示しています。
- ファイザー — 米国 37,078/先進国 16,188/新興国 9,313(百万ドル)
- イーライリリー — 米国 43,481/欧州 11,558/その他 6,057/日本 2,132/中国 1,951(百万ドル)
リリーは日本を国名で開示しています。 米国企業が日本での売上を単独で示す例は多くありません。
日本の会社も米国で売っている
通信の業界ページでは、日本の会社が米国の利用者に携帯電話を売ることはない、と書きました。医薬品は逆です。
- 武田薬品工業 — 武田ファーマシューティカルズ U.S.A., Inc.、バクスアルタUS Inc. ほか
- 第一三共 — 第一三共Inc.、アメリカン・リージェントInc.
- アステラス製薬 — アステラス ファーマ US, Inc.(販売)、アステラス ファーマ グローバル ディベロップメント Inc.(研究開発)
3社とも米国に研究開発や販売の子会社を置いています。同じ市場で同じ医師や患者に向けて売っているため、この業界の対応の濃さは全体に濃くなります。
日本側だけが持つもの、米国側だけが持つもの
単一セグメントであっても、事業の中身が完全に同じわけではありません。開示資料から読み取れる違いは次のとおりです。
- 第一三共は一般用医薬品(第一三共ヘルスケア)を子会社に持ちます。米国3社にこれに当たる事業はありません
- 武田薬品工業は血漿分画製剤を注力領域に挙げています
- メルクは動物用医薬品を持ちます
- ファイザーは受託開発製造(PC1)を持ちます。他社の医薬品を製造する事業です
よくある質問
武田薬品工業のアメリカ版はどこですか?
事業の形がもっとも近いのはファイザーです。どちらも幅広い疾患領域を扱い、ワクチンを事業に含みます。ただし武田は血漿分画製剤を注力領域に挙げており、ファイザーは受託開発製造を持つため、扱う範囲は完全には一致しません。
アステラス製薬とイーライリリーが◎なのはなぜですか?
双方が「単一セグメント」であると開示資料に明記しているためです。アステラスは有価証券報告書に「区分すべき事業セグメントが存在しない」と書き、リリーは10-Kに「単一の事業セグメント — ヒト用医薬品」と書いています。この業界で事業の形がもっとも近い組み合わせです。
なぜ△(対応が薄い)が1件もないのですか?
日米6社とも、開示資料の上では「医薬品を研究し、作り、売る」以外の柱をほとんど持たないためです。持っているのはメルクの動物用医薬品(9.9%)、ファイザーの受託開発製造、第一三共の一般用医薬品くらいで、いずれも会社の主たる事業ではありません。
対応の濃さが業界によって偏ることは、判定の甘さではなく業界の性質です。通信のページでは◎が1件もありません。
米国3社の売上高が近いのは偶然ですか?
2025年12月期の売上高は、ファイザー62.6・メルク65.0・リリー65.2(十億ドル)です。理由は開示資料から読み取れないため、当サイトでは説明しません。数値はそれぞれの10-Kに記載されたものです。
数値はいつ時点のものですか?
決算数値は各社の直近の年次報告書(米国は10-K、日本は有価証券報告書)によります。決算期は会社ごとに異なり、米国3社は12月期、日本3社は3月期です。株価と時価総額はページ上部に記載した基準日の値です。
数値の基準日
- 売上高(米国企業)
- 各社の直近の通年決算(FY2025)。出典は米国SEC(証券取引委員会)に提出された年次報告書(10-K)
- 売上高(日本企業)
- 各社の直近の通年決算(2026年3月期)。出典は金融庁EDINETに提出された有価証券報告書
- 株価・時価総額
- 2026-08-15 時点
- 為替
- 1米ドル = 159.31円(2026-08-15 時点)
投資判断は自己責任で行ってください。
当サイトは特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
数値は基準日時点のものです。最新の情報は各社の開示資料をご確認ください。